東京高等裁判所 昭和31年(ラ)106号 決定 1958年8月27日
抗告人 三野昌治 外三名
主文
原決定をとりけす。
原裁判所は東京地方裁判所昭和二十七年(フ)第二三九号破産事件の債権表中、進行番号第一の一号債権者宇津木一万太郎の債権額一、二〇四、七〇〇円の債権、第三号債権者株式会社堤商店の債権額金一七七、五〇〇円の債権、第四号債権者山崎源太郎の債権額金一七七、五〇〇円の債権、第六号債権者升屋商店の債権額三五五、〇〇〇円の債権、第七号債権者株式会社稲垣商店の債権額一七七、五〇〇円の債権、第八号債権者株式会社山崎屋商店の債権額二八五、七五〇円の債権、第九号債権者宏協産業株式会社の債権額金一七六、七五〇円の債権、第一〇号債権者鍵三株式会社の債権額金三三一、五〇〇円の債権、第一一号債権者株式会社殿木商店の債権額金三五五、〇〇〇円の債権、第二二号債権者株式会社丸三商店の債権額金二、六三〇、九五〇円の債権につき、各債権調査の結果らん中「破産管財人及び出席破産債権者から異議なく確定」とある部分を「届出破産債権者栗林敏夫、同三野昌治から異議があつた」と更正しなければならない。
理由
本件抗告理由の要旨は別紙抗告理由のとおりである。
本件抗告が適法であるかどうかについて。
債権調査の期日に、届出破産債権に破産管財人破産債権者または破産者から異議が述べられたのに、債権表にはその旨の記載がされない、あるいは異議を述べるものはなかつたのに異議があつた旨の記載がされたという場合には、この記載の誤りによつて不利益を受ける関係に立つものは、破産裁判所にたいして、債権表の記載の訂正を求めることができる。それは、破産法第一〇八条に「破産手続ニ関シテハ本法ニ別段ノ定ナキトキハ民事訴訟法ヲ準用ス」とあるによつて、民事訴訟法第五四四条第一項前段が準用されると解され、債権調査の結果を正しく債権表に記載することは破産裁判所の任務であつて、個別的強制執行手続における強制執行の方法というに準ずべきであるから、同条の異議の申立として訂正を求めることができると解するを相当とするからである。この訂正を求める申立が、破産裁判所によつて却下または棄却された場合にはこれにたいして即時抗告をすることができることは破産法第一一二条にあきらかである。抗告人らが昭和三十年十一月三十日原裁判所えさし出した「破産債権表の更正申立」と題する書面の記載は民事訴訟法第五四四条第一項準用による異議であり、原決定はこの異議を棄却する決定であるとみとめられるから、本件抗告は適法である。
よつてすすんで、抗告人らが昭和二九年二月二三日午前十時の本件破産事件の債権調査の一般期日にその主張のように異議を述べたかどうかの点について調査するに、原審における被審人栗林敏夫、同三野昌治、当審における証人川島杉雄、同栗林敏夫の各供述をあわせ考えると、昭和二九年二月二三日午前十時の債権一般調査の期日において、破産管財人の認否について抗告人栗林敏夫は塚原商事株式会社外十二名の砂糖屋関係の債権、ならびに宇津木一万太郎の債権の全額に異議ある旨陳述し、つづいて抗告人三野昌治もみぎに同意見である旨を述べていずれも異議の申立をなした事実を認めることができる。原審における被審人和田亀太郎同田村盛一の尋問の結果中みぎ認定に反する部分は信用しない、他にみぎ認定に反する証拠はない。
されば、本件債権表の記載はみぎ部分に関するかぎり事実に反することあきらかで、破産裁判所は抗告人ら主張のとおりに、債権表の記載を更正すべきものである。よつて本件抗告は理由があると認めて主文のとおり決定する。
(裁判長判事 藤江忠二郎 判事 谷口茂栄 判事 満田文彦)
抗告の理由
一、申立人等は破産総会に於て破産者田村盛一に対する東京地方裁判所昭和二十七年(フ)第二三九号破産事件に付債権者宇津木一万太郎其の他和田亀太郎を代理人とする砂糖問屋の関係債権に付抗告人等が異議申立を為したるに拘らず右決定理由に依れば異議なしと認定して居るが破産管財人青木氏自体が昭和三十年十月十三日東京地方裁判所に対し債権不存在の準備書面を提出しておるに徴し明らかである。
二、其の他理由並びに証拠は追つて追完する。
抗告理由(追加)
一、破産債権の調査期日昭和三十一年二月二十三日調書は余りに簡略過ぎる嫌あり調書中管財人の意見のみを記載し他の債権者の意見は、調書の一応作成せられたる後に異議なしとの文字が挿入せられたるなり。
二、本件破産事件の調書を検するに確定判決と同一の効力を有する債権一覧表と称するものは昭和三十一年一月頃作成せられ滝川叡一の在任の終期に作成せられ居る。(昭和三十年十一月二十六日更正の申立期日並びに十二月 日の抗告人等の尋問の頃には作成の事実がなかつた)問題は破産法上債権表の作成に関して其の期間は何等の規定が為されて居らない点であるが、従つて債権表は何時如何なる時でも作成して差支えないと言う考え方もあり得る。
然し乍ら斯る場合に於ては一部書類は昭和二十九年二月二十二日に作成に着手し、其の作成の終了は昭和三十一年一月頃に為されたと解釈せらるる。
然りとするならば其の間は確定判決と同一の効力を有するに足る形式の完全なる表は存在せず、其の間に於ては異議を受け入れまたは更正等の可能な状態にあつたと考えることが正当である。
三、抗告人等が調査に異議を申立てたる理由の根拠は次の事実により明らかである。
イ、田村盛一より右砂糖屋に対する保証取消の内容証明書を発送して居るものである。
現に東京地方裁判所昭和三十一年(ワ)第一七五五号破産債権確定訴訟事件として否認債権者との間に訴訟が行われて居る。
ロ、宇津木関係債権に付いては、三野昌治、栗林敏夫は昭和二十七年破産者田村盛一の代理人として宇津木に対し、債務不存在等の訴訟を起案し、其の東京地方裁判所昭和二十七年(ワ)第九一八二号事件として訴訟に当つた。
従つて三野、栗林はこれを承認する余地は全くない。尚この点については砂糖屋代理人和田亀太郎弁護士自体田村の代理人として宇津木に対し、仮処分の申請を為し且つ、同人の詐欺の告訴状を野方警察署に提出したものである。
破産管財人青木定行も前掲訴訟に於て準備書面を持つて債権を否認して居る。(昭和三十年十月十三日提出)従つて右何れの点より判断するも当時砂糖屋関係債権並びに宇津木関係債権の存在は他の何れの債権者等によつても否認せられ争あることは、これを証拠を持つて説明する。